SPIN営業術に欠かせない、論理的思考の鍛え方
SPIN営業術という言葉はご存知でしょうか?
営業支援システムで有名なSalesforceさんが研修に取り入れいたり、Microsoft、IBM、といった名立たる企業が採用していることで話題になった、質問を駆使した営業手法のことです。有名な書籍として、ニール・ラッカムさんのSPIN営業術という書籍も出版されています。
特に、利害関係者が多岐に渡り、購買動機を高めるまでに時間を要する“大型商談”や”法人営業”に向いている営業手法と言われています。セレブリックスでも、このSPIN営業術の有効性をかねてから説いており、営業テックメディアSalesZineでも、その活用事例を紹介しています。
しかしここで“あえて”問題提起をします。論理的にものごとを考えられない人に、SPIN営業なんて出来ないと思う、と。本コラムでは、論理的思考とSPIN営業の関係性、そして、SPIN営業の効果を高めるための論理的思考の磨き方を解説いたします。
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※本コラムは、弊社今井のnoteを加筆修正したものです。
SPIN営業術とは何モノなのか?
SPIN営業術とは、SPIN話法やSPIN法とも呼ばれる、セールステクニックのひとつです。
質問の構成は4つにわかれており、
S:Situation Questions<状況質問>
P:problem Questions<問題質問>
I:Implication Questions<示唆質問>
N:Need-payoff Questions<解決質問>
これをS→P→I→Nの順に質問を進めていき、商談成立に繋げていきます。(もちろん、商材や商流によって、このSPINの順序をあえて変更することもあります)
なぜSPIN営業が必要かというと、PUSH営業であれば、そもそも顧客は商品を買おうと思っていないケースがほとんどです。また、PULL営業でも、コンペになることが多く、顧客の要件や要望に応えるだけでは、価格競争に巻き込まれたり、そもそも商品の性能勝負となり、営業の介在価値がなくなってしまうからです。
つまり、「顧客が自社(あなた)から商品を買ったほう良い理由」を見つけるために、SPIN営業術(法)のようなヒアリングテクニックを駆使するのです。
SPIN営業術に論理的思考力(ロジカル シンキング)が必要な理由
結論としては、”論理性がないと、顧客の課題を解決する最適な提案を間違えるから”です。
SPIN営業の構造を噛み砕いて説明すると、
◾︎ 状況の質問
御社の状況ってどうですか?今、誰がどんなことを、どのようにやってますか?これからどうなりたいんですか?理想に対してどこまで出来ていますか?
◾︎問題の質問
理想に対してうまく言ってない理由は、どんなところが問題になっていますか?このままで上手くいきそうですか?弊害は何ですか?
◾︎示唆の質問
その問題を解決するために、本来はこのような取り組みを行うべきではないでしょうか?できるだけ早く○○をやった方がいいですよね?
◾︎解決の質問
わたし達の製品を活用できれば、それは解決できませんか?○○さまは、この取り組みを行うべきだとお考えいただけますか?
など、言葉の言い回しは分かりやすさを重視したため、雑な物言いに聞こえるかもしれませんが、大まかなストーリーはこのようになります。上記を読んでお気づきになった方も多いと思いますが、SPINは前後がつながっています。
質問や顧客情報の把握を複雑化しないために、それぞれが独立したテーマを持って質問をするものの、基本的には、『状態がわかるから、問題が見つかる』→『問題がわかるからあるべき姿を示唆できる』→『あるべき姿を示唆するから解決策を質問できる』・・と、このように整理できます。
このつながりを正しく作らなければ、最適な提案は実現しません。
現状や理想を聞いても、そこで発生する問題提起が的外れであれば、顧客の共感や納得は得られませんし、あまりズレた質問をしていると、恐らく顧客の気持ちはどんどん離れて行くでしょう。質問を通して、相手の現状把握〜問題発見〜課題抽出〜対策までを一貫性を持たせなければいけないのです。
論理とは何か?そしてSPINと論理の関係性を問う
論理とは何か?それは突き詰めれば『辻褄あわせ』と解釈して良いと考えています。いわゆる三段論法と呼ばれる、【A=B、B=C すなわち A=C】と言ったように、それぞれの因果関係に筋が通っていて、誰が見ても同じ認識であることを証明できる状態が必要です。
では、なぜSPIN営業術に論理的思考が必要なのでしょうか?
この答えは先にあげた、
質問を通して、相手の現状把握〜問題発見〜課題抽出〜対策までを一貫性を持たせなければいけないのです。
こちらに理由があります。
現状から対策(解決)までの一連の流れに、辻褄が合っていないと、課題を解決する一貫性のない提案になってしまうのです。質問しても、辻褄を合わせられなかったり、筋道を通せないと、ズレた問題提起をしたりチンプンカンプンな対策を提案してしまいます。
ケースでみる、論理とSPIN
こういった経験、ありませんか?
営業
目標に対して進捗状況が足りてないので、広告予算を追加して母集団を増やさなきゃいけませんよね…?
顧客
いえ、これ以上母集団を増やしても、営業が処理出来ないので、あまり広告出稿を増やさそうとは考えてないですね……
営業
…なっ、なるほど!
上記は一例ですが、このようなコミュニケーションギャップを生み出していることのひとつに、論理的な思考が関係しています。
上記の営業はどこに問題があるのでしょうか?
それは、営業が『目標に到達していない = 広告出稿を増やすべき』という自分の論理で会話を展開していることにあります。
もちろん、必ずしも間違っているとは限りませんが、これでは、論理的思考で大切なMECEという概念が抜け落ちています。※MECEとは、抜け・モレ・だぶり がなく網羅されている状態を指します。
今回のケースで言えば、目標達成の進捗が悪い要素が母集団形成とは限らないこと、そして目標達成の進捗を高める要素が広告出稿だけでない事を考えると、決めつけの要素が強く、論理的であるとは言えないでしょう。
このように、論理の展開が飛躍する時(辻褄が合わずにズレる時)の要因として、対話の中間プロセスが抜け落ちているケースが目立ちます。
つまり、本来は【A=B、B=C 、だからA=C】なのに、辻褄が合わない会話のケースは【A=B 、だから A=C】というように、B=Cの小前提の確認が抜けてしまう事で、ロジックが成立しなくなってしまっているのです。
当然、ロジックが成立しなければ、SPIN営業での問題質問や示唆質問が現状に対してズレていきます。従いまして、SPINのフレームを理解していても、そもそも最適な課題解決提案ができないのは、ある意味当然の結果なのです。
営業における論理的思考の磨き方
では、論理的な営業を行うための、鍛錬の仕方について触れて起きたいと思います。結論としては、営業活動の中で論理的な対話、見解を示すのは決して簡単ではありません。
一般的な論理的思考の書物には、素晴らしい考え方や方法論が記載されていますが、商談中、しかもまだ関係性ができていない方との会話を通して、頭の中を整理する…という前提では書かれていません。商談中に、ロジックツリーを作っている暇はありませんし、対話を中断してピラミッドストラクチャーを描き出すわけにも行きません。
会話の中で、ロジックを成立させるのが難しいのです。
日頃から、頭の中でロジックツリーを描けたり、ものごとを構造的に、そして分解して考えられないと上手くできません。したがって、物事を細分化して考える訓練を普段から沢山やっておき、パターンを持っておきましょう。
例えば、
- 売上を上げるためにオンライン・オフラインでできることはどんなことがあるか…
-
海外で仕事をするためには、どんな手段があるか…
など、ネットでもたくさん例題がでていますので、とにかくロジックツリーを作る練習をすることです。こればかりは、思考の習慣になるまでやる。というのがベストです。周囲から説明がわかり易くなったね…と言われたら合格です。
また、補足する考え方としては、一度の打ち合わせで決めつけず、1回目のヒアリングは状況の調査に集中して、問題や示唆の投げかけは熟考した上で次の商談で行う…とういうのも有効です。ただし、リードタイムは長くなるので、製品やコストなど様々な観点でベストな方法を考える必要があります。
そして、一つの物事を因数分解する時に、そもそもの知識量によって、分解できる項目の数に偏りが出ます。限りなく網羅性のある状態を目指す訳ですから、やはり訪問する企業、市場、競合のことは徹底的に調べることが必要です。
さらに、顧客が発言する内容の論理性も私達は疑わなければいけません。顧客の発言は事実とは限りません。認識バイアスという名の、偏見と色メガネによって顧客のフィルターを通して物事が語られます。
私達は客観的な視点を持って、顧客の発言に対して、「本当にそうか?」と、論理的であるために、ある意味では常に顧客の発言に対して疑いや問題意識を持ってコミュニケーションを取る必要があるのです。
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まとめ
SPIN営業術はとても大切ですが、聞けた情報を論理的に組み立てること出来ないと、そもそも一貫性のない課題解決プランになる…という話をしました。顧客の心を動かす、顧客にとって代わりのきかない素晴らしい営業を目指すためには、ぜひロジカルシンキングもセットで身につけると良いでしょう。
むしろここがしっかり身につけば、勝手にSPIN営業術が使えるようになるかもしれません。