【レポート】テレワーク購買モデル大研究〈セッション1: コロナ禍における購入者視点で考えるB2Bビジネス〉
2020年5月「テレワーク 購買モデル大研究」と題したイベントをオンラインで開催しました。アフターコロナの営業活動については様々な予想がされていますが、実際に国内外の傾向や消費動向はどうなっていくのでしょうか。
セッション1では、株式会社博報堂 買物研究所所長の山本泰士氏をお招きし、コロナ禍におけるB2Bビジネスが購入者視点でどう変化するのか、お話しいただきました。
1. テレワークによる消費動向の変化
山本
withコロナ期に入ると、自粛から解放されて人々が街に出始める一方で、また感染者が増えてきて閉鎖をするといったように、解放と閉鎖を繰り返す時期が、これから半年ないし1年やってくると言われています。この時期に何をすれば良いのかが、これからのB2CとB2Bに求められるポイントになると思っています。
既に非接触やソーシャルディスタンスが定着している中、B2Cでは、ECで商品を買い、商品を届けてもらうことが生活者の間で一気に当たり前になり始めています。B2Bでも、withコロナの時期は不要不急の外出はなるべく減らした方が良いんじゃないか、という意識がやはり高まると思いますので、オンラインで営業するスタイルはますます普及していくと考えています。
今井
今まで、商談は対面でするものだと思っていた方々も、B2Cでオンラインが当たり前になることでB2Bの営業活動をオンラインで実施することにも拒否反応がなくなってきて、ユーザー側が慣れてきたりリテラシーが高まってきたりする可能性はありそうですよね。
山本
リテラシーが高まることによって不要不急のミーティングや訪問に対して疑問は生まれてくるかもしれませんね。
また、経済状況がかなり不透明で流動的な状況で、とにかくたくさんの情報が出回っていますが、これからの購買活動には信じられる情報と「直接つながること」の重要性が増すと考えています。今、40%近い生活者が情報の不信に苦しんでいるというデータもあるくらい、信じられる情報に辿り着くのが難しくなっています。特にビジネスでは、今後の事業計画や営業計画を立てる際に、どんな見立てを信じれば良いのか、どのツールを信じれば良いのかといった、信じられる存在が重要になってくると思います。
それに伴い、これからは「欲実直結」という考え方が鍵になり、顧客とつながって、顧客が何となく感じている悩みや課題を形にして実現してあげるという購買モデルが重要になってくるんじゃないかなと思います。
今井
不透明な状況が続く今、何の情報を仕入れたら良いかわからず、今お金を使うことがベストか判断できない状態に陥ってしまっているわけですよね。そんな状態のお客様に営業したりビジネスをしたりする時は、効率にこだわらず、顧客一人ひとりの欲求に切実に、誠実に向き合うことがとても重要になるんですね。
山本
そうですね。これまでは、生活者は漠然とした気分や欲求を抱えていても、情報やモノが多すぎて判断できず、結局購買に至らないというケースが起きていたんです。これから求められるのは、生活者が漠然とした欲求を持った段階で企業が寄り添って対話をし、情報やコンテンツ配信で役に立って信頼関係を構築することで、生活者の気分や欲求を形にしていくことだと思います。信じられる存在になることが、購買につながっていくのではないでしょうか。
2. 海外での事例や対策案
山本
生活者とつながり続けるという形が大きなポイントだとお話しましたが、特に「会話」でつながることが重要だと考えています。
今、生活者は検索しようにもどんな言葉で検索すればよいのかわからず、もはや検索するという行為さえ面倒になっている状況なんです。そんな時に、生活者は会話やチャットで質問して、企業側はそれに答えてあげることによって漠然とした欲求を形にし、「自分はこれが欲しかったんだ」と生活者に気付かせてあげた上で実現させてあげる、というようなつながり方が、どんどん拡大してきています。
たとえば、米国のキッチンウェアブランドの「Equal Parts」では、商品を買うと、8週間プロのシェフがチャットで料理の相談に乗ってくれる、会話でつながり調理器具を展開しているんですね。生活者がわざわざレシピを調べなくても、直接会話してつながり続けることで役に立ち、その結果リピートにつながる、という仕組みににチャレンジしている例です。
また、Walmartが実験的に立ち上げた「JetBlack」という会話型の買い物コンシェルジュサービスがあります。これは富裕層向けのサービスで、生活者の漠然とした質問や相談に対して、人間のコンシェルジュがおすすめの商品を提案してくれるものです。このように、生活者の悩みや欲求を瞬時に形にすることで、商品を買ってもらうという試みをしています。
同様に、個人の体調に合わせて飲み物をおすすめしてくれる「Dirty Lemon」というサービスも、検索不要の買い物ができる例の一つですね。SMSという身近なチャットツールを通じて自分の体調に合わせておすすめをしてくれるので、生活者からの信用につながり、新しく商品を案内するとまた買ってくれるんですよ。長期的につながり続けて生活者の役に立つことによって信用が積み重なり、また買ってしまうというロイヤリティモデルでもあるんです。
今井
たとえば、今までは対面で商談するのが当たり前だったものがオンラインに変わった面白い事例や話題になっているものはありますか?
山本
中国ではネットで車を買えることは当たり前だったんですが、この4月からフランスの自動車メーカーの「プジョー」もECで車を買えるようにしたんですよ。購入した車をディーラーが自宅に届けてくれるサービスも展開していて、まさに遠隔での営業形態を可能にした例です。
今井
ではB2Cの高額商材も、オンラインで契約完結は可能ということでしょうか?
山本
そうですね。中国では当たり前にやられているようですね。
今井
「信用できる人から購入する」というのが大きなキーワードですね。コロナウイルスによるテレワークの影響で、対面で直接コミュニケーションをとることが叶わない一方で、買い手の気持ちを考えると、コミュニケーションはできる限り楽にしながら一人ひとりのニーズや欲求、わがままには寄り添っていくことが求められているということですね。
3. B2B購買モデルの変化予想
山本
コンテンツマーケティングがより重視されてくると思います。まずは役に立つ情報を発信して顧客とつながり続け、その結果、顧客が困った時に第一想起してもらえる会社になれるかどうかが、この時代で非常に重要になってくると思います。
会話やチャットを通したビジネスモデルについてお話ししましたが、これは「会話経済」と呼ばれています。何かわからないことがあったら気軽に会話で聞ける環境があり、そこから継続的なつながりを作れると、実際に困った時に第一想起にもあがりやすくなるのではないかなと思います。
今井
セレブリックスも、この1年~1年半くらいで、営業というキーワードを考えた時や営業に困った時にセレブリックスを想起してもらえたら嬉しいなと思いまして、今までの営業支援で得た経験や情報をオープンソース化して、提供することにしたんですよ。そうすることで、営業に困った時はいつもセレブリックスの情報に辿り着いて、セレブリックスという会社のファンになってくれる方が増えていって、今ではSNSで案件のご相談やご発注をいただくこともあります。こういう取り組みが、今重要ということですかね?
山本
普段からTwitterを見て、勉強になったり役に立ったりするコンテンツがあるからこそ、いざ動き出す時にまずセレブリックスさんに相談してみよう、となるので、理想のカスタマージャーニーが作られていると思います。
今井
では、インバウンドと呼ばれるような反響営業にシフトしていくという考え方では浅くて、その企業ならではの専門性で深い悩みを解決するような情報を提供することが大事ということでしょうか?
山本
そうですね。ニッチな商品であっても、困った時に検索ワードで調べる人はいると思うので、自分たちの商品が何に使えるのか、どう使えばよいのか、使ってどんな成果が生まれたのかというポイントを具体的にコンテンツ化していくことが重要かと思います。
B2Cでは、直接売上にはつながらないものの、企業が生活者へコンテンツを日々発信して役立ち続けることでいつか買ってもらおうという動きが、徐々に起こり始めていますね。
今井
直近の売上にフォーカスするのではなくて、私たちが関わり続けることでその人のニーズを作るようなイメージですね。
でも、企業で費用対効果が求められる中、不透明なものにお金をかけにくいじゃないですか。社内を説得させるためにはテクニックが必要なんですかね。
山本
顧客との絆のようなものをどのようにKPI化していくかは考えなくてはいけないでしょうね。つながった人たちが検索してくれる時に、自社の指名検索をどれだけしてくれるかといったポイントもKPIに置けるかもしれません。
今井
SNSのように、あまりお金をかけずに始められるツールでコンテンツ配信やファン作りをしていって、その結果指名検索がどれくらい増えたのかとか、実際にご相談が何件あったのかといったものを見える化して、絆づくりのために会社からお金を出してもらうこともできそうですね。
4. ファンから支持を受けているコンテンツとは?
山本
一つご紹介したいのは、バーチャルライブ化のお話です。たとえば、「NIO」という自動車メーカーでは、ライブコマースを使った営業を実施しているのですが、その中で、ディーラーではなくファン自身が車の紹介や商品の自慢をしてくれるなどして、ロイヤル化した顧客がエバンジェリストになってくれているんですね。つまり、会社やブランドを一つのテーマにしてみんなで語り合えるようになっているんです。
今井
企業側はどういう仕掛けを作れば、ファン同士のコミュニケーションが起きやすくなるんですか?
山本
NIOさんだと、ユーザーの方を巻き込んでセミナーを開催していますね。ユーザーを巻き込んだ企業活動で、一緒にブランドを作る活動が盛んなので、コロナ禍で遠隔の状況になっても、ユーザーに助けられている部分はあると思います。
最後になりますが、不透明でなかなか先の見えない状況が続いていますが、だからこそ人々が離れていてもDXでつながり、不安に答えて役立ち続けることがより求められる時代になっていくと思います。
そのために、草の根からのDX、草の根から直接つながるということを実現していくことが非常に重要です。
今井
今日聞いたキーワードに、「会話経済」「信じられる人から買う」というものがありました。会話を中心に経済が動いたり、会話をもとに受発注が生まれたりする機会が増えるというところで、営業や販売に従事する私たちがやれることはまだまだあると感じました。こんな時代だからこそ、やはり営業は居続けないといけないですし、信じられる存在であることが、この環境の中での営業活動を優位にする大きなポイントになるのだと思います。
5. Q&A
Q. アフターコロナの世界では、ますます効率・コスト改善への欲求が高まるのでしょうか? またそれ以外のアートなど情緒的なプロダクトはどうなっていくのでしょうか?
A. 効率・コスト改善は前提として刈り取りの部分で求められつつも顧客がますます捉えにくくなる時代において、直接つながりつづけることが重要になります。そこでコンテンツ、アート、イベントなどを通して生活者と情緒的につながる重要性は増してくるものと考えます。
Q. 車の対面販売からECへ移行する上で障壁となる点はどのような点が考えられますか?通信インフラ、セキュリティ、信用問題以外に考えられる点はありますか?
A. 試乗と購入との線引きがあいまいになるかもしれません。実際テスラではディーラーを廃止しましたが7日以内の返品を可能にしています。「購入決定」がゴールではなく、その後の顧客満足度を高めなければ買われない。これまでの単なる売り切り型営業が変化しなくてはいけない時代になり、人材教育などの視点も変化するはずです。
Q. エンドユーザーとチャット等でやり取りした情報は、企業として効率よく蓄積する必要があると思うのですが、 海外で成功している企業は、どのようにAI]等とのバランスをとって、そのあたりを実現しているのか、簡単に事例をお話しいただけると嬉しいです!
A. 簡単に応えられる手順系質問はAIに、より深いレコメンドは人に。ということが現状起きていることです。すべてAIチャットボットだと、顧客満足度は上がらない。ある程度コストをかけた人型の接客だから絆が生まれる。この「感情的」な接客、おすすめの部分をどう低コストにしていくかがテクノロジー分野でより求められていくかもしれません。
本イベントの登壇企業
・マーケティング・ソリューションを提供する博報堂買物研究所
・B2B営業代行業界最大手株式会社セレブリックス