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『トップ営業の秘密は休日にあり?』-セールスパーソンの適性と余暇行動から見えてくるもの-

目次[非表示]

  1. 1.はじめに
  2. 2.営業適性と余暇行動の関係
  3. 3.業績との関連性
  4. 4.業績層による違い
  5. 5.ワーク・エンゲイジメントとバウンダリー・マネジメント
  6. 6.実務への応用
  7. 7.まとめ



はじめに

近年のビジネス環境は目覚ましい進化を遂げています。働き方改革やデジタル・トランスフォーメーション(DX)、さらには2020年のコロナ禍によるリモートワークの広がりなど、私たちの働き方は急速に新しい形へと移行しています。


このような状況の中で、「セールスパーソンの余暇活動」と「営業成績」の関係という興味深いテーマがあります。皆さんは休日をどのように過ごしていますか?実は、その過ごし方と営業成績には、意外な関連があるかもしれないのです。


本コラムでは、全国の20代から50代のセールスパーソン1,000名を対象にした調査から見えてきた、興味深い傾向についてご紹介します。営業の第一線で活躍する方々も、マネジメント層の方々も、ぜひ参考にしてみてください。



営業適性と余暇行動の関係

営業職に向いていると自己評価している人は、どのような余暇行動をする傾向があるのでしょうか?調査結果を分析すると、以下の特徴が浮かび上がりました。

  1. 創作活動(音楽/芸術/絵画/執筆等)をおこなう
  2. 講演会やセミナーに行く
  3. スポーツ(ジョギング、ジム、球技等)をする
  4. 行楽・旅行(国内・海外)に行く


特に注目すべきは、「創作活動」や「講演会やセミナーに行く」といった知的な活動が上位に来ていることです。これらの活動をよく行う人は、そうでない人に比べて「営業職に適性がある」と自己評価する傾向が有意に高いことがわかりました。

 
これは一般的な営業職のイメージとは少し異なるかもしれません。一般に営業職では体力が重要視されるイメージがありますが、実際には創造性や新しい知識の吸収に積極的な人が営業職に向いていると感じる傾向があるようです。
 
営業活動はマニュアル通りに進むことは少なく、常に変化する顧客ニーズや市場環境に対応する創造性が求められます。また、顧客との対話では新しい話題を提供できることが信頼関係構築に役立ちます。こうした特性が、知的好奇心の高い人々が営業適性を感じる理由かもしれません。
 
また、性別による違いも見られました。男性は女性に比べて、「営業職に適性がある」と自己評価する傾向が強いことがわかりました。これは、営業職は男性の仕事というイメージがまだ社会に残っていることを示唆しています。このような認識は、多様性が重視される現代においては見直されるべきであり、性別に関係なく個人の特性や能力を重視する風潮が広がることが望ましいでしょう。


業績との関連性

次に、「自分の成績が組織内の上位5%に入っている」と答えた高業績セールスパーソンの余暇行動を見てみましょう。こちらにも面白い傾向がありました。

  1. ダンス・踊りをする
  2. ドライブに行く
  3. 休養する、くつろぎ、のんびりする(業績との関連性が負である)


最も興味深いのは、「休養する、くつろぎ、のんびりする」という項目が業績と逆相関を示していることです。つまり、よく休養する人ほど、トップクラスの業績を上げている確率が低いという結果になりました。
 
一般的には、休日はリラックスして過ごすのが良いとされていますが、トップセールスはむしろ積極的に体を動かすような活動的な余暇を好む傾向があるようです。
 
「ダンス・踊り」が強い関連を示したことも興味深い発見です。この関連性の背景には、フィジカルな活動性に加えて、リズム感や表現力、さらには対人的な協調性など、営業活動に有用な要素が、「ダンス・踊り」に含まれている可能性が考えられます。ただし、これはあくまで推測の域を出ないことに留意する必要があります。



業績層による違い

さらに興味深いのは、業績のレベル別に見たときの特徴の違いです。
 
上位20%のセールスパーソンは、上位5%と同様に「休養する、くつろぎ、のんびりする」が業績と逆相関を示しました。一方で、「スポーツをする」ことや「創作活動を行う」ことが上位20%に入る確率と関連していました。これは、肉体的な活動と知的な活動のバランスが良い人が、優秀なセールスパーソンになる傾向があることを示唆しています。
 
興味深いことに、上位50%のセールスパーソンで最も特徴的だったのは「習い事やレッスンに行く」ことでした。これは平均的なセールスパーソンが自己啓発に励んでいることを示しています。こうした人達には、向上心が強く、自己成長への意欲が高い人が多いことを示している可能性があります。あるいは、自分の業績に満足していない人、もしくはあるいは、能力不足を自覚している人達が、スキルアップのために習い事に取り組んでいるという解釈も考えられます。



ワーク・エンゲイジメントとバウンダリー・マネジメント

これらの傾向を理解する上で役立つ概念があります。「ワーク・エンゲイジメント」と「バウンダリー・マネジメント」です。
 
ワーク・エンゲイジメントとは、仕事に対して情熱を持って取り組む心理状態を指します。オランダ・ユトレヒト大学のシャウフェリ教授らが提唱したこの概念は、「活力」「熱意」「没頭」の3要素で構成されます。厚生労働省の「令和元年版 労働経済の分析」によれば、ワーク・エンゲイジメントが高い人ほど労働生産性も高い傾向があるとされています。
 
一方、バウンダリー・マネジメントとは、仕事と余暇時間の境界を主体的に管理する能力のことです。同じく厚生労働省の調査では、ワーク・エンゲイジメントが高い人ほど、バウンダリー・マネジメントが「できている」と自己評価する割合が高いことがわかっています。
 
この観点から考えると、トップセールスの人たちは、休日もアクティブに過ごすことで、オンとオフを明確化し、仕事への意欲を維持しているのかもしれません。「ただ休む」のではなく、「仕事とは違う形で活動的に過ごす」ことが業績向上につながっていると考えられます。
 
こうした傾向は、近年注目されている「ワークライフバランス」の概念にも新たな視点を提供します。単に「仕事と生活の時間的なバランス」だけでなく、「生活の質」そのものが仕事のパフォーマンスに影響を与えることを示唆しています。つまり、理想的なワークライフバランスとは、仕事と生活の時間配分の問題だけでなく、余暇時間をいかに充実させるかという「質」の問題でもあるのです。トップセールスの人たちは、無意識のうちにこのような質的なバランスを実現しているのかもしれません。



実務への応用

では、こうした傾向をビジネスにどう活かせるでしょうか。いくつかの提案を考えてみました。
 

採用・配属の観点から
 
採用や部署配属の際、応募者の余暇活動について聞いてみることも、あくまで一つの参考要素として役立つかもしれません。特に「創作活動」や「講演会・セミナー参加」といった知的好奇心を示す活動や、「ダンス」などの活動的な余暇を好む人は、営業職に適性がある可能性が高いと言えそうです。
 
昨今の個人情報保護の風潮を考えると、プライベートな情報を聞くことには配慮が必要ですが、業務に関連する自己啓発や趣味について会話することは、応募者の特性を理解する上で参考になるでしょう。
 
もちろん、従来の適性検査や面接と組み合わせて総合的に評価することが重要です。また、現在多くの日本企業が採用している新卒一括採用から通年採用への移行が検討されていることも踏まえると、部署ごとに特性を見極めた採用が今後さらに重要になってくるでしょう。

人材育成の観点から
 
セールスパーソンの育成においては、単に営業スキルだけでなく、余暇の過ごし方についてもアドバイスすることが有効かもしれません。例えば、社内研修の一環として、「効果的な余暇の過ごし方」といったテーマのセッションを設けることも考えられます。
 
また、会社の福利厚生として、スポーツジムの利用補助やダンス教室の割引など、アクティブな余暇活動を支援する制度を導入することも検討の価値があるでしょう。創作活動やセミナー参加を促進するような補助制度も、セールスパーソンの成長に寄与する可能性があります。

働き方改革の観点から
 
「休まない=良いセールスパーソン」という認識は適切ではありません。大切なのは休み方の質です。充実した活動的な余暇が仕事のパフォーマンス向上につながる可能性があることを理解し、従業員の多様な余暇活動を支援する文化を育むことが重要でしょう。
 
バウンダリー・マネジメントの観点からは、仕事と余暇の境界を明確にすることが重要です。単に「休養する」だけでなく、「仕事とは異なる活動に積極的に取り組む」ことで、メリハリのついた生活が実現し、結果として仕事のパフォーマンス向上につながる可能性があります。



まとめ

セールスパーソンの余暇行動と適性・業績の関係には、面白い傾向があることがわかりました。

  1. 営業適性が高いと自己評価する人は、創作活動やセミナー参加などの知的活動を好む傾向がある
  2. 高業績のセールスパーソンは、ダンスやドライブなどのアクティブな余暇活動を好む
  3. 「のんびり休養する」という余暇行動は、高業績とは逆の関係にある

 
これらの傾向は、バウンダリー・マネジメントの観点から見ると非常に示唆に富んでいます。仕事と余暇の境界を明確にしつつ、余暇時間を充実させることが、セールスパーソンのパフォーマンス向上につながる可能性があるのです。
 
皆さんも、次の休日はいつもと違う過ごし方をしてみてはいかがでしょうか?いつもリラックスして過ごしている方は少しアクティブに、いつも予定を詰め込んでいる方は思い切って創作活動に挑戦してみるなど、新しい余暇の過ごし方が、仕事のパフォーマンス向上につながるかもしれません。
 
営業部門のマネジメントを担当されている方々も、チームメンバーの余暇活動に注目してみてはいかがでしょうか。思わぬ適性発見のヒントが隠れているかもしれませんよ。




本コラムは、以下の論文をもとに作成しています。
-北中英明、「営業員の適性と業績に影響をおよぼす要因についての分析」、『経営経理研究(拓殖大学)』、Vol.121、2022/3、pp.83-107



著者:北中 英明(Hideaki Kitanaka)


拓殖大学 商学部 教授
一橋大学商学部、ノースウェスタン大学ビジネススクール卒(MBA)。サントリー株式会社、日本ゼネラル・エレクトリック(GE)企業開発部長、日本ディジタルイクイップメント事業開発部長を経て1997年より学界に転籍。おもな研究領域は、営業管理、デジタル・マーケティング、営業活動におけるAI活用。
著書:『はじめての営業学』弘文堂、2022年、『プレステップ経営学』弘文堂、2009年、『複雑系マーケティング入門』共立出版、2005 年
ブログ:営業学事始―Sales Study Initiative (https://eigyo.info/


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