営業マネージャーのための生成AI活用 3原則
営業組織の中でも、業務プロセスに生成AIを取り入れる企業が少しずつ増えてきています。生成AIの活用方法の事例や体験談が増えたことで、イベントやコラム等で情報を仕入れやすくなってきました。
しかしその一方で、営業マネジメントにおける生成AIを活用する上での注意事項やポイントに関する記述や情報は少ないのが現状です。そこで、営業支援を行うセレブリックスの体験談や営業コンサルティングを行う中でアドバイスしていることなどをこの記事ではまとめていきます。
結論からお伝えすると、営業マネージャーに必要な生成AIの活用には、おさえておきたい3原則があります。
- AI活用の美意識と倫理観
- マネージャーこそAI脳が必要
- 目標には段階を持たせる
です。
なお、そもそも営業組織において、生成AIやChatGPTの活用を取り入れようかどうか、お悩みの方は「営業職が1番最初に読むべき生成AIの活用方法」をご覧ください。
【留意事項】
- 本コラムは2023年12月15日に公開したものであり、その時の市況や生成AIのサービス展開状況を前提に記載しています
- 本コラムは特定の生成AIを推奨するものではありません
- 本コラムは営業活動における生成AIの活用について述べていますが、内容は基礎的なものを取り上げています
目次[非表示]
- 1.1.AI活用の美意識と倫理観
- 2.2.マネージャーこそAI脳が必要
- 3.3.目標には段階を持つ
- 3.1.ステップ1:実証実験フェーズ
- 3.2.ステップ2:スモールサクセスフェーズ
- 3.3.ステップ3:全社展開初期フェーズ
- 3.4.ステップ4:生成AIで成果をあげるフェーズ
- 3.5.ステップ5:個別化フェーズ
- 4.まとめ
執筆者プロフィール | |
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執行役員 カンパニーCMO /セールスエバンジェリスト 株式会社セレブリックスのセールスエバンジェリストとして、法人営業に関する研究、執筆、基調講演等を全国で行う。2021年8月には “Sales is 科学的に「成果をコントロールする」営業術” を扶桑社より出版。営業本のベストセラーとして累計出版数が5万部を超える。 2022年7月には単著二作目として “お客様が教えてくれた「されたい」営業” を出版。現在は執行役員 CMOと新規事業開発の責任者を兼任。管掌するプロダクトとして営業コミュニティのYEALE、営業専門の人材紹介のSQiL Career Agent、日本最大級の営業エンターテイメントJapan Sales Collectionなどがある。 Everything DiSCの認定トレーナーであり、専門は営業、プレゼンテーション、コミュニケーションスタイルと多岐に渡る。 |
1.AI活用の美意識と倫理観
営業組織が生成AIの活用を認めている割合は、2023年の8月段階で11%に留まっています。
(※セレブリックスSNS調べ)
他社調査機関のさまざまなレポートを見ても、営業職以外の職業でも大きな変化は見られませんでした。そのような環境のなかで、営業マネージャーが営業メンバーに対して、常に指導しておいてほしい考えがあります。
それは、「営業側が生成AIの利用を許可していても、お客様企業は許可していないかもしれない」という前提への疑いを持ち続けることです。この前提が持てていない営業職のコミュニケーションやアクションはリスクを孕みます。
営業メンバーが商談後に議事録としてメールをする際に、悪気なく「AIにまとめさせました」と発言することもあるかもしれません。お客様が生成AIの利用を禁止しているのに、営業側がお客様情報や世に出していない機微な情報を生成AIに学習させてしまうのは、倫理的に問題がないのか?
そうした場合、「効率的だから商談内容の議事録は生成AIにまとめさせよう!」と方針を発するのではなく、商談における対話情報をそのまま議事録としてまとめさせるのは危険だと考えた方が良いでしょう。そのため営業マネージャーは、営業組織における生成AI活用のガイドラインやマニュアルの作成は必須です。
実証実験やテスト利用において、トラブルシューティングや実運用における手順を踏まえて、作成と社内アナウンスを徹底しましょう。しかし、ルールやマニュアルだけではリスクコントロールしきれないのが生成AIの世界です。したがって、生成AIを活用する上での「倫理感」や「美学」、つまり良し悪しの基準を定め社内発報することが大切です。
なお、生成AIの利用については、法律の問題や法律的にどうなのかという疑問がセットで発生します。
例えば、本記事をお読みのみなさんは「お客様や第三者のセンシティブな情報を生成AIに学習・生成させることは、法律的にどう受け取るべきか」という点はどのようにお考えになるでしょうか?これについては、そもそもその情報が守秘義務や秘密保持契約によって守られる情報かどうかによっても変わってくるでしょう。
一方で著作権などへの扱いについては、次のように考えられます。結論としては、生成AIだから特別に法律が変わるということは現段階では特にありません。作成(生成)されたものが、「類似性」及び「依拠性」に該当するかどうかです。
つまり、生成AIで著作物を加工して作られたものでも、人が著作物を加工したものであっても、法律の扱いは変わらないということです。
類似性と依拠性というものは、簡単に言ってしまえば、生成されたものが「これ明らかにコピーだよね」 「この著作物をベースに作成したでしょう」ということが認められたら、著作権侵害となるいうことです。一方で「著作権で守られていなければ利用してOKか?」というと、そうではありません。
お客様企業のコンテンツや情報(例えば、メディアに公開されている記事/IRや統合計画書/YouTubeなどの動画メディアで話している内容)を生成AIに学習させて、別のコンテンツを作成し、営業場面で資料やコンテンツに利用していることがわかったら、お客様によっては不信感・不安感を抱くこともあるかもしれません。
こうした時に思い出す言葉は、とある芸能人の受け売りですが、「何を言うかは知性、何を言わないかは品性」という言葉です。営業における情報収集や仮説構築のために扱うのはよかったとしても、冒頭の解説にあるようにAIに調べさせました、と発言するのは時期尚早と言えそうです。※時期の問題ではなく、倫理と美学の問題ですが
2.マネージャーこそAI脳が必要
3原則の2つ目は、マネージャーや管理職こそAI脳を持とうということです。AIを活用、またはAIの出力や対応に処理できる知識や体験談を持っておこうという比喩表現です。
この考えは、多くの営業組織の実態に対する問題提起から生まれました。それは、AIやデジタルの活用といった新しい取り組みは若い人達に任せて、自分達がそこを探究する必要はないと判断している管理職が多いことです。
強みを活かす・やらないことを決める・権限委譲のように見えて聞こえは良いですが、マネージャーが生成AI活用の本質を捉えられていなければ、長い目で見てその組織は健全に動きません。もしくは、マネジメントが機能しなくなる可能性があります。(そうしたらその人がマネージャーでいる意味はありません)
常に会社の中で1番生成AIの情報を知っている人である必要はありませんが、生成AIにおけるメリットやデメリット、リスクについて判断できる基礎知識や体験情報は備えておきましょう。具体例に、営業マネージャーにAI脳が必要な理由には次のようなことが挙げられます。
①生成AIとマネージャーのどちらが頼れるか
生成AIの利用を許可している営業チームでは、営業メンバーが「事前にAIで調べた」上でアウトプットや相談を持ってくることが増えます。
マネージャーがメンバーに対して指導したり、フィードバックを行う際に「AIで調べた結果は××でした。」という回答や、声には出さないが、営業パーソンの頭の中で「…AIと言ってることが違うなぁ」と思われることは増えるでしょう。そうなると、マネージャーは自分の成功体験だけが「指導・フィードバック・アドバイス」ではなくなると理解する必要があります。メンバーへの説明に対して、論理性がないと納得されないのです。
最も恐ろしいことは、「マネージャーに相談しても感覚的だから、生成AIに相談すればいい」となってしまうことです。この状態では、マネジメントが利いているとは言えません。生成AI時代だからこそ、AIの出力を討議しコーチングする発想がマネージャーには求められていると言えます。
②生成AIは万能ではない
一方で、生成AIは「万能」ではありません。
「営業職が1番最初に読むべき生成AIの活用方法」でも記載しましたが、AIは嘘をつくことがあるからです。
さらに、生成AIを使い熟すには4.の「生成AIが出す回答への前知識・予備知識」が必ず必要です。基本知識がないのに生成AIを利用すると、生成AIが出した出力の、何が正解で何がウソ(間違っている)か分からないまま利用してしまいます。
これは非常に恐ろしいことで、嘘の情報を与えてしまうと一瞬で信用を失います。実際に私も、とある企業の中期経営計画に関する情報等を読み込ませた時に、書かれている実態と異なる要約が出てきて冷や汗をかきました。
このように、生成AIへの理解(得意なことと苦手なこと)を深め、健全な疑いを持って生成AIの強みを活かすことが重要です。
このようなリスクに対して、営業マネージャーや営業部長の持つこれまでの成功体験や一次情報が役に立ちます。さらに言えば、AIに聞いても出てこない生の情報であるため、営業職にとって貴重な情報になるのです。
③生成AI活用時代の営業マネージャーがなってはいけない3つの「無」
少し言葉あそび的な発想もありますが、生成AIを活用する上でバッドなコミュニケーションになる3つの「無」について押さえておきます。
それは、無能・無知・無謀の3つです。
無能
「AIなんか頼ってんじゃねぇよ!とにかく電話かければいいから」
と言ったような、そもそも生成AIへの理解や活用に対して、本質を捉えていない無能的なコミュニケーションです。自分が知らない、分からないから認めない。といった知識や体験への既得権益が発動されています。
無知
「私はよくわからないので、AIの言うとおりにしてやってみたらいいんじゃない?」
あなたが上司からこのようなフィードバックをされたらいかがでしょうか?この人は「何も知らないんじゃないか」「自分の答えがない」という印象を抱くことでしょう。こうしたコミュニケーションが増えると、営業パーソンはマネージャーに相談を持ちかけなくなります。
無謀
「AIがそういうなら、とりあえずやってから考えればいいんじゃない?」
とりあえず試してみる、という習慣を否定するつもりはありません。しかし、こうしたコミュニケーションが増えれば、計画性の無さや兎にも角にも行動といった、ある種の根性論や感覚論を露呈することになります。本来はAIが出した出力に対して、マネージャーなりの見解や判断があって計画的にコトを進めるべきなのです。
3.目標には段階を持つ
生成AIの活用に限らず、最適な目標や指標を持つことが営業マネジメントには重要です。しかし、生成AIの活用における目標設定の正解や参考にする情報が少なく、苦労する実態が営業マネージャーを悩ませます。
そこで、生成AIの活用における段階的な目的と目標のイメージを共有します。
ステップ1:実証実験フェーズ
多くの組織がまずは自分達の会社で生成AIを活用できるか?活用するならどのような方法かを見極める段階を作ります。そこでの目的や目標はこのように定めます。
例:
目的 |
生成AIの活用における方針を決める |
目標 |
テストとなる実証実験のプロジェクトにおいて、生成AIを活用して非効率、非生産的な問題を解決した事例を見つける |
※目安となる定量的な目標を置いてもいい
ステップ2:スモールサクセスフェーズ
新しいサービスや概念の普及は、それが生産性や効率性のアップにつながることだったとしても、最初は営業現場に仕事を増やす指示をすることになります。反発やアレルギーを組織全体で起こして収集がつかなくなる前に、特定の部門やチームで成功体験を作って、社内に広めやすい土壌を作ります。
例:
目的 |
限られたチームで成功体験を作る |
目標 |
・非営業業務時間の10%削減 ・商談件数を生成AI前平均月数の120%にする |
ステップ3:全社展開初期フェーズ
社内の営業パーソンが、生成AIを活用して成果を出すには段階的な目標が必要です。まずは営業パーソンが生成AIを使ってみる、という状態に対する目標を置き、オンボーディング(慣れるためのサポート)に指標を作りましょう。
例:
目的 |
営業職が生成AIを便利に感じる |
目標 |
生成AIの利用率90% |
ステップ4:生成AIで成果をあげるフェーズ
生成AIを活用したことで、全社で生産性をどのように高めるか目標を設定します。可能な限り定量的にモニタリング(測定)できる目標が望ましいですが、売上や受注数などは生成AI活用以外の相関関係も考えられるため、状態目標の設定でも構いません。ポイントは状態目標であっても定量的な目安に落とすところです。
例:
目的 |
全社で生成AI活用による生産性を高める |
目標 |
・非営業業務時間の10%削減 ・商談件数を生成AI前平均月数の120%にする |
ステップ5:個別化フェーズ
生成AIがビジネスプロセス・セールスプロセスに組み込まれて日常の習慣行動になったあとは、活用の目標を掲げるのではなく、個別化を図っていきます。
この頃には、生成AIを使いこなせる度合いも営業パーソンによって大きく差が生まれていることでしょう。したがって営業組織や営業マネージャーは、人それぞれの利用度合いや習熟度に合わせた目標の設定を行っていきます。つまり、個々人の営業目標を達成するための手段や、主目標以外のサブ目標やチャレンジ目標に組み込まれていくイメージです。
まとめ
今回は営業マネージャーのための生成AIの原則や目標設定についてご紹介しました。営業パーソンが生成AIを多用していても、マネージャーが正しく判断できなければその効果は半減します。ぜひ本記事をお読みの皆さまも生成AIの活用にチャレンジし、実証実験を通して精度を高めてみてください。
営業組織における生成AIの活用でお困りのことがあればいつでもご相談ください。セミナー、研修、アドバイザリー、代行、コンサルティング等各種扱っております。
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