「イベント企画」の作り方~検討すべき要件と企画設計のプロセス~
ビジネスの世界でもイベントという言葉をよく耳にします。 特に、近年はオンラインで開催されるセミナーやカンファレンス、展示会も増えて、イベントの多様化が進んでいます。また、オフライン会場の様子をWebで配信するハイブリッド開催も一般的になってきており、対面中心だった時と比較すると、より多くの方に手軽な方法で情報をお届けすることが出来るようになりました。
そうした背景から、今まではイベントを積極的に施策として取り入れていなかったけれど、これから注力していきたいという方も増えているようで、弊社でもイベント支援サービスに関するご相談を受けることが増えてきています。ご相談いただく中には、「何をどう決めればいいのかわからない」「初めてイベント担当になったので何から着手すべきかわからない」という方もいらっしゃいます。
そこで、本記事では「イベント企画」をどう作っていけばよいのか、具体的なプロセスと考え方について実際に使っているテンプレートも交えながらご紹介します。
なお、少しだけ補足しておくと、マーケティング活動全体においてイベントは手段ですので順番としては、「イベントやりたい⇒何する?どうする?」ではなく「○○という状態になりたい⇒手段として最適なのがイベントだね⇒具体的にどうする?」と計画するものです。(一部例外として「これまでにとったことのない手段なのでどんな結果が得られるか試してみよう」という理由で実施することはあると思います。)
今回お伝えするのは「手段として最適なのがイベント」であると判断された後の内容となります。
目次[非表示]
- 1.ビジネスにおけるイベントとは
- 2.イベントの企画をつくるプロセス
- 2.1.①目的・目標の設定(何のために)
- 2.2.②手段の選択(どうやって)
- 2.3.③概要の作成(具体的にどのように)
- 2.4.④内容の作成(何を伝えるか)
- 2.5.⑤調整・補完
- 3.振り返りと改善
- 4.まとめ
ビジネスにおけるイベントとは
そもそもビジネスにおけるイベントとは何かというと、企業や組織が特定の目的のために主催する計画的な集まりや活動のことを指します。法人営業活動を行っているなかでのマーケティング施策としては以下のような種類のイベントがよく知られています。
展示会
業界の最新の製品やサービスを展示し、参加者とのネットワーキングを図ります。
カンファレンス・セミナー
特定のトピックについての知識共有や議論を目的とし、講義やトークセッションが行われます。
ワークショップ・勉強会
参加者が特定のスキルや知識を学び、実践するために行われます。
ネットワーキング・交流会
業界関係者が情報交換を行い、新たなビジネスチャンスを見つけるために行います。
上記以外にも、見込み顧客にサービスの使い心地を試してもらう体験会、特別なお客様だけを招待する限定パーティー、サービスユーザー同士の交流を深めるユーザー会など、様々なイベントがあります。詳細は後述しますが、「何を目的とするか」によってどんなイベントを実施するのかは異なりますので、他社の開催状況などもみてどんな手法があるのか常に情報をアップデートすることも大切です。
最近では驚くほどの多くのイベントが常時開催されているので、参加者向けに近日開催する予定のイベントをまとめたサイトもあります。
弊社でもYEALEというサービスで、営業パーソン向けのイベントを集めてご紹介しておりますので是非チェックしてみてください。
なお、こちらのイベントページへのご掲載希望の方はこちらからお問い合わせください。
イベントの企画をつくるプロセス
イベントの企画をつくるプロセスは大きく5つのフェーズに分けられます。
ここでも、今一度補足しておきますが、マーケティング全体の目的のために「イベントが最適である」と選択された状態であることが前提です。
- 目的・目標の設定:何のためにやるのか明確にする
- 手段の選択:目的を果たすために最適な方法を選ぶ
- 概要の作成:目的、手段をもとに具体的な実施方法を計画する
- 内容の作成:何をどう伝えるかをつくる
- 調整・補完:出来上がった企画をもう一度眺めて矛盾や無理がないか検討する
1,は計画を立てる段階で事業(あるいは会社全体)で目指している目標や方向性が反映されます。2,については展示会や有料のイベント参加を検討するのであればマーケティング予算の配分なども加味する必要が出てくるでしょう。3,4,に関してはテンプレートや設計シートなどを使用することで抜けもれなく、素早く骨格を作ることが出来ます。5,では企画の全体を通じて目的と照らし合わせた時にずれがないかを確認し、調整します。
それぞれ詳細について項目を立てて説明します。
①目的・目標の設定(何のために)
イベントを成功させるには目的を明確にすることが非常に重要です。
具体的にいうと、「イベントを通じて自分たちがどんな状態になりたいか」を決めることです。
例)
- 新サービスが、より多くの人に知られる状態になる
- 見込み顧客の、購買意欲が高まる
-
商談済みの顧客が、購入を決める
目的を明確にすると、「○○達成のために、必要かどうか」という判断軸ができるため、その後の設計プロセスにおいて取捨選択をしやすくなります。更に、どんな人を対象に、どんな内容で、どんな形でイベントを行うべきか具体的な概要もみえてきます。
また、複数人、複数の企業同士で施策に取り組むときにも、それぞれの目的をすり合わせることで齟齬なく、迷いなく運営を進められるようになります。
セレブリックスではイベントの種類を「セリング」「マーケティング」「ブランディング」と大きく3つに分けています。
認知獲得やファンづくり、指名検索を獲得したいなら、ブランディング。
リード獲得やHOTリードへの引き上げが目的なら、マーケティング。
商談や案件獲得、受注を獲得したいなら、セリング。
定めた目的をより具体的にすると、目標が見えてきます。例えば、「認知獲得をしたい」という目的を掲げたら、「どんな人にどの程度認知されたいのか」とより具体的なターゲットや目標数値まで検討していきます。
そのため、目的を決める時には事業として(あるいは会社として)どのようなフェーズにあるのか、サービスを取り巻く環境や市場はどんな状態になっているのか、顧客の購買プロセスやペルソナはどうなっているのか、など周辺の状況も認識しておく必要があります。
もう少し詳しい解説をこちらのコラムでも紹介しているので、参考にしてみてください。
②手段の選択(どうやって)
目的が定まったら、次はその目的を達成するために「どんなイベントを実施するか(参加するのか)」を決めます。
先述の通り、イベントにはさまざまな種類がありますが、どのように判断していけばよいかというと、予算、リソース、得られる結果を掛け合わせて最適なものを選ぶとよいでしょう。
予算は、マーケティング予算の中から実施に向けた費用を捻出できるのか、ということです。
例えば、展示会出展や他社主催イベントへの協賛などは一度に大量かつ自社の集客では得られない層の見込み顧客を獲得できる可能性が高いですが、その分出展費用、協賛費用が必要となります。予算計画の中に折り込み済みのものであれば、特に問題はないと思いますがそうでないイベントを施策として取り入れたい場合、そのための予算をどこかから捻出する必要があります。
リソースは、そのイベントに関連する業務を担当する人員を割り当てられるか、ということです。ここでも想像しやすいと思うので展示会を例にしますが、会期前の各種手配(出展ブースのデザイン発注、配布物の手配、主催との連携など)を担当する人員はもちろん、開催当日に出展ブースで声掛けをする人員、さらに、開催後、見込み顧客へフォローアップをする人員も必要となります。
得られる結果は、目標達成の見込みはどの程度立てられるのか、ということです。
展示会や定期的に開催されているイベントなどであれば過去の状況からどういった結果が得られるのかを確認し、目的達成のための手段としてふさわしいかどうかを判断する必要があります。過去のデータがなければ「今後の参考データを取得する」ことを目的の一つに据えて、まずはやってみる、ということになります。その場合、次回以降参照できるように「どのような数値、定性情報を収集しておくべきか」を事前に決めておくとよいでしょう。
繰り返しにはなりますが、「イベントは手段」です。そのため、基本的には投資対効果の高い状態を目指すことが肝要ですが、「採算を度外視してでも目的を達成する」という強い思いがある場合は思い切った判断をすることがあるかもしれません。
また、初めて取り組むというときには、この「手段の選択」が一番難しいかもしれませんが、データ収集と経験の蓄積で、自社のターゲットとする市場の特性や傾向が見えてくると思います。
都度情報はアップデートしつつ、目的に則した手段を選択しましょう。
③概要の作成(具体的にどのように)
目的、手段が決まれば、次は開催に向けて具体的なことを決めていきます。
「決めるべきこと」の要素は、イベントの種類によって異なりますが、有償で参加する展示会やカンファレンスなどの場合、主催側である程度何を用意するかのガイドラインが用意されていることが多いです。ですので、ここからは自社でセミナーを企画する場合を前提としてお話を進めます。
例えば弊社で企画運営しているセミナーの場合でも、ざっと書き出してみるとこれだけの決めるべき要素があります。
- 日時:実施する日付と時間帯。
- 場所:開催する場所やその設備。オンライン、ハイブリッド開催もある。
- 実施スケジュール:開催までの段取りについて。
- 予算:オフラインで実施の場合の場所代や、集客予算、消耗品の購入などもある。
- 人員:企画は誰がするのか、フォローアップは誰がするのか。
- テーマ:どんな内容にするのかの大枠について。
- タイムテーブル:当日の段取りについて。
- 集客方法:イベントページの準備、メルマガでの告知、広告配信など。
- 集客目標:どのくらいの人を集めるのか。(参加数や属性など決める場合もある)
- アンケート:イベント後の参加者からのフィードバック収集方法。
自社セミナーや共催セミナーなどの場合であれば、要素は決まっているので、抜けもれの内容にテンプレートなど用意しておくことをお勧めします。
さらに、Japan Sales Collectionのように協賛を募って実施する規模の大きなコンテスト&カンファレンスであれば、上記にプラスして以下のような要素も必要となります。(※実際はもっとありますが一例です)
- 協賛プランの設計:協賛プランの金額や内容の設計。
- 協賛営業の目標:どのくらいの売り上げを目指すのか。
- スタッフのインフラ手配: 食事、交通、宿泊など参加者の滞在に関する手配。
- 当日の会場運営計画:スタッフの数、人員配置、役割の明確化など。
- セキュリティ: 会場の安全性や緊急事態への対応計画。
- コンテスト運営の設計:エントリーの集め方、審査方法、運営方法など。
また、これらの要素は相互に依存していることが多いため、一つを変更すると他の要素にも影響が及ぶ場合があります。
具体的なシチュエーションとしては、Aという会場を使いたいけれど希望の日程で空きがない場合「日程変更するのか」あるいは「会場を変えるのか」という判断を迫られます。
「会場」が変わればアクセスが変わるのでオフラインで想定通り集客できるのか見込みが変わります。「日程」が変われば登壇できる人が変割ります。このように一つの変更がほかの要素に与える影響は非常に大きいです。
特に大型カンファレンスの場合こうした決断の連続となりますが、そういう時には「目的」に立ち返ってその時の最善を選ぶことが肝要です。
セレブリックスが主催する年に一度の大型イベント「Japan Sales Collection2024」もそんな視点でご覧になると一味違う見え方になるのではないでしょうか?(お申込みはこちら↓↓から)
④内容の作成(何を伝えるか)
概要まで決まったら、イベント内で実施するセミナーやワークショップの「中身」について考えます。中身を考える時には「結果」から考えています。
どういうことかというと、以下のような2つのステップに分けて考えているということです。
- イベント参加者が「どんな人」で、参加後に「どんな状態になってほしいか」という結果を想定する
-
1に至るには「誰が」「どういう内容を」「どんな形式で」届けたら実現するかを考える
1,は目的とも言い換えられるので①でご紹介した目的目標と重なってややこしいのですが、ここでは「参加者」を主体とします。参加者の属性、年齢、職業、興味、知識レベルなどを理解し、彼らがイベントに参加することで何を得て、どのような行動をとるのかを想定します。「●●な状態になってほしい」ということは、「現状そうでない」ということなので、そのギャップを埋めるために提供するのが2で作成する「中身」になりますね。
2,「誰が」「どういう内容を」「どんな形式で」に関しては様々な掛け合わせ方がありますが「どういう内容を」から検討するとよいでしょう。
内容については1で生じたギャップを埋めるための「WHYとHOW」から考えます。
例えば、1で「新規事業の責任者が自社のサービスの営業戦略についてロードマップを描けている状態」に導きたいとします。その場合、現在の状態は「新規事業・サービスの営業戦略が出来ていない」ということになります。その人に対してどんな情報を与えれば理想の状態に導けるのかを考えると、それに必要な要素やテーマがいくつか浮かぶと思います。
次に「誰が(登壇者)」それを伝えるのか、ですが社内で提供サービスに一番詳しい事業責任者、提供しているサービスのユーザーと一番立場の近いメンバーなど、選択肢は様々です。上記の例の場合、自社内の「営業責任者」なども適任でしょう。
基本的には社内のメンバーに依頼すると思いますが、他社と共同で開催するイベントやカンファレンスなどの場合は社外の有識者にお願いをすることも視野に入れます。その時には「時事性」や「権威性」を意識して登壇者の候補を探します。「誰から伝えると受け取ってもらいやすいか」という視点で、有名な書籍の著者の方、ビジネス系のイベントで頻繁に登壇されている方、テレビ番組のコメンテーター、雑誌の記事寄稿者、大学教授や研究者、など広く探すことをお勧めします。
最後に「どんな形式にするのか」ですが、オーソドックスなのは授業のような形式をとる「講義」と一つのテーマについて複数の角度から見解を述べあう「トークセッション」です。いずれの場合でも質疑応答の時間を設けるなど参加者が体感として「学ぶ」を能動的に実施できる仕組みを作ると満足度を高めることが出来ます。
ワークショップや勉強会などの場合、事前に課題を出して当日の内容に答え合わせや発表を組み込んだりすることも、参加するメリットが多く作れるので体験向上につながります。
余談ではありますが、伝え方の部分は、詳細な演出方法などテレビ番組やニュース番組などからヒントを得ることもあります。近年ではビジネス系のイベントも数多く実施され、飽和状態になっています。参加して良質な知識を得られるだけでなく、楽しんでもらえることも意識して設計をすることで、記憶に残してもらえると考えます。
⑤調整・補完
概要、内容まで作ったら、全体を見渡して最終調整をします。
目的、ターゲット、想定される課題や、それに対して用意する答え、イベント実施後の参加者の変化、その変化に対するフォローアップ体制など、全体をシミュレーションして無理な流れはないかを確認します。
おすすめのやり方としては、想定したペルソナに一番近い知り合いを想像して、その人がイベントに参加したとしたらどんなふうになるかを考えてみると良いです。
一人で想像するのが難しい場合、人に見てもらって意見をもらうのもいいと思います。
ここで違和感が生じたら、どこかの要素を変更する、付け足す、差し引く、ことで調整を行います。1から考え直しになる場合もありますが、「違和感」がある場合はたいてい「何かが過剰」であることが多いので「なにを引けばいいか」の視点で調整項目を探してみると良いでしょう。
振り返りと改善
最後に実行した後の話ですが、イベント終了後は各種データを取得して、最初に定めた目的・目標を達成できているのか必ず振り返りを実施しましょう。
イベントというものはほかの施策と比較して準備に時間と工数を要します。また、会期中には「参加者(視聴者)がコンテンツに触れているところ」を直接見ることが出来るため、主催する側としては「実施した感覚、満足感」を得やすい施策です。そのため「やったこと」に満足をして、この振り返りをおろそかにすると、「やっただけ」で終わってしまいますので、気を付けなければなりません。
また、「どのポジションで関わったのか」によって反響が異なる可能性もあるため、全てのポジションの人(全員ではなく全ポジション)からの意見を聞くことが肝要です。
注意すべき点としては、「波及効果」「副次効果」があるということです。
例えば、以下のように、目的、目標と照らし合わせても測れないものや、 思いがけない結果を得られるのがイベントです。
・自社セミナーで目標の見込み顧客は得られなかったけれど内容が濃密であったことからSNSで話題となり、Webサイトへの訪問数が増えた
・展示会出展で想定していたほど見込み顧客は得られなかったが奇抜なブースデザインが話題となりサービスの認知度が高まった、などのように
こういった項目についても、プラスアルファの効果としてデータをまとめておくことで次回の検討や改善にもつながります。
なお、具体的な指標や振り返りのポイントなどについて、こちらのコラムでもご紹介しておりますので、ぜひご覧になってみてください。
まとめ
・イベントを実行するには「目的」を明確にし、迷ったときには立ち返りながらその時々の最善の判断をすることが肝要です。
・概要作成をする際にはテンプレートなどを利用して整理していくと迅速かつ抜けもれなく設計をすることが出来ます。
・内容を作るときには「誰に」「何を」届けて「どんな状態に」なってほしいのかを意識し、そのために必要なテーマや答えを導くための問いを立てましょう。
・終了後には振り返りの時間を設け、目的・目標と結果を比較して次回の改善につなげましょう。
もちろん、全ての場合で①~⑤までを順番通りに実施しているわけではありません。「登壇者は決定した状態で全体を設計すること」や「実施のタイミングや訴求内容が決まった状態から設計を行うこと」もあると思います。そんな場合でも、一度このプロセスを通して内容を整理することで、実施のための意味や意義を認識し、具体的かつ効果的な施策としてのイベントを実施することに近づけるでしょう。
また、ここまでの説明でお気づきかもしれませんが、イベントは可変要素が非常に多い施策です。本番までの間に様々な事象が発生して想定通りに進まない場合も多々あるでしょう。
(登壇者が当日体調不良になってしまう、などということも起こりえますね)
そのため計画は計画としてしっかり定めつつ、「こうなったらB案、さもなくばC案」とバックアップできるようにしておくことも大切です。
冒頭でもお伝えしましたがイベントはあくまでも「マーケティング施策の1つの手段」です。総合的にどうだったのかを判断するのは難しい場面もありますが、目的・目標、そして投資対効果を主たる判断軸とすることが大事です。
執筆者:杉田 惠璃