北村弁護士に学ぶ「本音を導く話術と交渉術」のヒント【JSC2023】
2023年2月7日~8日に開催された、Japan Sales Cllection2023。5,200人以上のお客様を迎え大盛況に終わり、アーカイブ配信も無事に終了しました。今回は、金言が満載だった「北村弁護士に学ぶ『行列のできる最強話術と交渉術』」の一部をお届けします!(記事化の予定はありませんでしたが、北村弁護士から今回特別に許可をいただきました!)
北村弁護士は一流の弁護士として、反論対策や交渉、話術を活用しながら、相手を説得させ、納得してもらうことを日常的に行っています。この技術や情報を仕事に生かし、営業パーソンとして更にステップアップしていただけますと幸いです。
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本記事とあわせて、営業力を高めるための新規開拓チェックリストをぜひご活用ください。新規開拓で生産性を向上させ、成果を高めるためのチェックリストです。営業パーソンや営業組織が持つべき基本的なスタンス、起こすべき行動から、実際の営業活動で実施すべき項目までまとめています。
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お話を聞いた人:北村 晴男さん (北村弁護士)
弁護士法人北村・加藤・佐野法律事務所
早稲田大学卒業後、1986年に司法試験合格。1992年に独立して北村法律事務所 (現・弁護士法人北村・加藤・佐野法律事務所) 設立。
保険法、交通事故、債権回収、医療過誤などの一般民事が専門。日本テレビ系『行列のできる法律相談所』にレギュラー出演でまじめに熱く語る姿で人気を博す。現在はメディアでのコメンテーターのほか YouTubeでも活躍中。
一番重要なのは、事前準備。情報から想定される『クライアントの本当の狙い』を固めておく
今井:
北村さん、本日はどうぞよろしくお願いいたします。今日は、あらかじめ北村弁護士にお聞きしたいテーマをご用意させていただきました。営業パーソンはどれも知りたいテーマだと思いますが、北村弁護士がパッと見て「この話は得意そうだな」と感じるテーマはありますか?
北村弁護士:
よろしくお願いいたします。
そうですね、我々が一番大事にしているのは『段取り八分』ですね。
今井:
『事前にきちんとした下準備さえしておけば、仕事の8割は終わったようなものだ』という意味の『段取り八分』ですね。
北村弁護士:
そうです。情報がないと説得できませんからね。相手が今までどんな行動をして、どういう発言をしてきて、何に重きを置いてるか、どういう価値観を持ってるか。その情報を得るという下準備が一番大事ですね。
今井:
”誰のための段取りか”の”誰”の部分ををきちんと明確にする必要があるということですね。そして、その”誰”のために情報を用意するということですか?
北村弁護士:
そうですね。我々の仕事は情報をきちんと用意して、かつ情報の中で “未来予測” をしなければいけません。交渉で例を挙げるなら、この和解案を出して相手が受け入れるかどうか。ここが一番重要なんです。
今井:なるほど。
北村弁護士:
ただその時に、
- どうしても早く解決してほしいと思っているのか
- 長期戦になっても構わないと思ってるのか
その辺りの情報をきちんと引き出した上で、提案をおこないます。
長期戦で構わないのであれば割と低めの提案からしていきますし、短期で早く解決してくれないと困るということであれば、ギリギリ着地点に近いような提案をしてダメなら裁判。そういう発想をしたりしますね。
今井:
じゃあある意味、段取り八分ではありますが、カテゴリごとに完全に分かれきっているわけではないと。より良い段取りや準備をするための質問であったりとか、あるいは説得みたいなものが絡んでくる可能性がありますね。
北村弁護士:
そうですね。我々の場合、クライアントが問題を解決したいと相談に来ます。でも、実はクライアントが本当の自分の目的に気づいていないこともあるんですよ。
今井:なるほど。
北村弁護士:
それをなんとなく感じた時には、「今『Aにしてほしい』と盛んに言っておられるけども、本当に望んでいるのはBじゃないんですか?」と聞いてみます。本当の狙いをまずきちんと固めておくことが大切です。
『あらゆるネットワークを活用』して、準備をする
今井:
ありがとうございます。質問力と絡むところもありますが、北村弁護士が準備をする上で大事にしていることだったりとか、何か意識してることがあれば教えてください。
北村弁護士:
場面によって違いますが、和解の話し合いに入った時に重要なのは、『情報をとにかく集める』という準備ですね。段取りという意味では、これはすごく大事です。
相手の価値観や行動パターンと、何を求めるか、何を言ってるかという情報をひとつでも多く集めていれば、「この和解案なら食いついてくる」といった推測ができますので。
今井:
それはとても重要ですね。
北村弁護士:
例えば、医療事件だと、専門書を読んでるだけではなかなか準備が進まない。そうなった時は医者の友人に連絡して、「こんな事件でこういう状況なんだけど、どういう医学書を読んだらいいのか」とか「素人にわかりやすい本を教えて」と聞きながら情報を集めて、勝負するとかですね。そんなことをよくします。
それから、公開情報だけではなくて、ご自身の人脈であったりとか知人の方の二次情報とか、その現場にいる方々の情報を総動員しますね。あらゆるところがネットワークですから。ネットワークを総動員して情報収集をおこないます。
クライアントの本音を導くのは、『本人の立場に寄り添う』環境づくり
今井:
次にお聞きしたいのは、質問力についてです。先ほど、クライアントの方々がもっているニーズが、実は本当のニーズではないこともあるというお話がありました。この真実を見極める質問は、どんな風にやられているんでしょうか?
北村弁護士:
これはもう、経験則しかないんですよね。クライアントが「こういう事実があって、だからこうしたい」っておっしゃった時に、違和感に気づくことがあるんですよ。その違和感を解消するための作業が『質問』になりますね。
今井:はい。
北村弁護士:
違和感があっても、質問をして答えが返ってきて、「これで全部繋がった。じゃあこれでいいんだ」となる時もあります。一方で、聞いていくと、ますます「これおかしいんじゃないか…?」となることもあるんですよ。
人間って見栄を張るでしょ。だから、「Aにしたいんだ」と言ったほうが見栄えがいいということがよくあります。Bを選択をしたら、兄妹や家族と対立して仲が悪くなることを望んでいるみたいで、みっともないとか。そういうのあるでしょ?
今井:あります…!
北村弁護士:
そうやって、さまざまな事情で本音を隠している依頼者ってやっぱりいるわけですよね。だから経験則をもって、「人間ってこういう時に、こう考えるかもしれない」と予測していくなかで、違和感に気づくポイントが出てきます。
性格とかいろいろ聞いているうちに、「こういう性格だったらこれでもしょうがないよね」とか、「こういう性格だったらますますおかしいだろう」という風に考えるんです。
クライアントが「Aです」と言っていても、本音は Bかもしれないと思った時は、「あの、Bと言っても全然おかしくないんですよ。僕があなたの立場だったら Bだと思いますね」と伝えます。そして、「そうなんですよ…!」という本音を導き出す。そのようにして方針を決定していくこともあります。
今井:
なるほど。違和感のサインをしっかり見つけて、そこに対してストレートに聞くだけではなく、どちらかというと「私もそう思いますよ」という共感の意を示して話しやすい環境を作ってあげる。
北村弁護士:
そうです。本音を引き出しやすいようにしないと。誰でも見栄っ張りですからね。
違和感のサインを見つける『質問力の高め方』
今井:
経験則で違和感に気づけるか気づけないかといったところで差が出る、というお話がありました。この違和感、このシグナルのサインに気づける弁護士の方であればあるほど、質問力は上がると思いますし、営業力も上がると思うんですが、この部分はどのように高めていったらいいんでしょうか?
北村弁護士:
学生さんに「弁護士になりたいんだけど、どういう勉強をしたらいいですか?」と聞かれた時は、
「確かに勉強も大事ですよ。でも、自分の好きなことを一生懸命やってください。野球でもサッカーでも演劇でも何でもいいから、その時に最高レベルを目指してください。できればチームで。」といつも伝えています。
なぜかと言うと、一生懸命やるということは結果を求めるので、人間観察を積み重ねることになるんですよね。人に興味がない人は、弁護士に向いていませんっていう話なんです。
今井:はい。
北村弁護士:
なぜかと言うと、経験則が全く身につかないからです。「こういうことをしてきた人間だったら、こう考えるんじゃないか」とか、「こういうことをしてきた人間だったら、過去にこうしてるはずだ」とか。人間観察に興味がない人は、そんな風に考える経験がないので全く思いつかないんです。
つまらないことでも何でも興味をもって、人間活動について常にアンテナを張ることで経験則が身につき、違和感に気づけるようになってきますね。そういう経験がものすごく大事なんです。
今井:
まずは高いこの頂点を決めて、徹底的にやりきる…。本当にそうですね。今のお話を聞いててもう一つ思ったのが、観察することを決めて日常を過ごすっていうのはすごく大事なのかなと思いました。
北村弁護士:
そうですね、好奇心をもつことが大切だと思います。
今日からできるワンアップ「断定できることは断定する」
今井:
話術や説得といったところで、『相手に分かりやすく』というお話はあったと思いますが、そこ以外で気を使われてるポイントはございますか?
北村弁護士:
断定できることは断定する、断定できないことは断定しない。その区別を明確につけることをすごく意識してます。
というのも、本来断定していいことなのに、「~と思うんですよね」みたいな言い方をする人が結構いるんですよ。そうすると、クライアント側は不安になるんですよね。断定していいことは、きちんと断定する。そうすると「そうなのか…!」という反応に変わります。
逆に可能性が低いことに対しては、「これは可能性低いですね。どっちかわかりませんよ」としっかり伝えておくと、クライアントは「これはちょっと危ないかもしれないんだ」と 明確に区別できます。
それはかなり意識してますね。
今井:
癖で「~と思います」と言ってしまってる人、多いですよね。「~と思います」と言わないために意識することや、できることなど何かアドバイスがあればお願いします。
北村弁護士:
我々の証人尋問のテストでよくやるんですけど、「~思います」って言われると、裁判官が「事実なのかわからない、ただ推測を述べているのか…?」と思ってしまうんです。
ですので、癖で「~と思います」と言う証人に対して、「断定してくださいね。断定が正しいなら」と説明します。結局は『言わないと意識する』しかないのかなと思いますけどね。
今井:
意識するしかないと。実際に北村弁護士の周りの方で、北村弁護士にお話をする際に、つい「~と思います」と言ってしまう若手がいたりしますか?
北村弁護士:
それはいくらでもいますよ。その時は僕、聞き返します。「推測を言ってるの?それとも間違いない事実ですか?」と(笑) そういう風に聞いて、どちらなのかを確認しますね。
今井:
このラリーを繰り返すと良くなってきますか?
北村弁護士:
少しずつ良くなっていきますね。
今井:
ありがとうございます。営業パーソンのできることとしては、上司や周りの方に「自分が『~と思います』と言ったら、『推測?事実?』と聞き返すようにしてもらえますか?」と合意を取っておくことによって、レベルアップする可能性があるかもしれないですね。
北村弁護士:
はい、おっしゃる通りだと思います。
今井:
意識と周りを巻き込んで「~と思います」を禁止していく、これが話術のポイントだということをお伺いできました。
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北村弁護士から営業パーソンへメッセージ
今井:
最後に、このセッションを見ている営業職の方へメッセージをいただければと思います。
北村弁護士:
営業の仕事って、私から見るとすごい大変な仕事だと思っているんですよ。その点について大変敬意を表したいと思います。ただ、いつも営業される側に回ってる人間として1点だけ申し上げたいことがありまして、「この人は自分のために言ってくれてるのね」と思わせていただきたいんです。
営業が自分のために言ってるとしか思えない時は、全く聞く耳がもてないんですよね。なので、ぜひとも「相手のために説得してるんだ」と思わせていただきたい、とだけ申し上げておきます。
今井:
ありがとうございます。購買者の立場から、貴重な意見もお伺いできました。北村弁護士でした。本当にありがとうございました!
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