営業部門が知っておきたい5フォース分析の使い方
市場分析は、競争や移り変わりが激しいビジネス環境で生き残るために不可欠です。ここでは、ハーバード大学教授のマイケル・ポーターによって開発された分析ツール、「5フォース分析」を解説していきます。
5フォース分析の「フォース」とは「脅威」、つまり競争要因を指し、事業の競争環境を評価するためのフレームワークです。具体的には、業界の収益性、構造、事業リスクを理解するために使われることが多いです。 そして、このフレームワークは経営に不可欠なツールと言われており、会社の戦略策定や競争戦略策定に活用できますが、営業戦略や事業戦略を考える上でも非常に有効です。
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『5フォース分析の使い方 』とあわせて、「競合比較・分析フォーマット」もご活用ください。競合比較に便利なエクセルフォーマットです。弊社コラム「BtoB営業における競合比較・分析のやり方を6ステップで解説!」と併せてご活用ください。
目次[非表示]
- 1.5フォース分析の基本概念
- 2.具体的な分析方法
- 2.1.要因1.競合他社の脅威
- 2.2.要因2. 新規参入者の脅威
- 2.3.要因3. 代替品の脅威
- 2.4.要因4. 買い手(顧客)の交渉力
- 2.5.要因5. 売り手(サプライヤー)の交渉力
- 3.評価から戦略立案の手順
- 3.1.ステップ1:分析結果のレビューと優先順位の設定
- 3.2.ステップ2:戦略の策定
- 3.3.ステップ3:実行計画の作成とリスク管理
- 3.4.ステップ4:実施と評価
- 4.5フォース分析を顧客理解に応用する
- 5.ケーススタディ
- 5.1.競合他社の脅威
- 5.2.新規参入者の脅威
- 5.3.代替品の脅威
- 5.4.買い手(顧客)の交渉力
- 5.5.売り手(サプライヤー)の交渉力
- 6.終わりに
5フォース分析の基本概念
5フォース分析とは、自社を取り巻く5つの”脅威や環境”を整理・評価するためのフレームワークです。
- 競合他社の脅威:業界内の既存企業間の競争の程度
- 新規参入者の脅威:新たな競争者が業界に参入する容易さ
- 代替品の脅威:顧客が選択可能な代替製品やサービス
- 売り手(サプライヤー)の交渉力:供給業者が価格や供給条件に影響を与える力
- 買い手(顧客)の交渉力:顧客が価格や品質などに影響を及ぼす力
画像の引用元:https://www.sbbit.jp/article/cont1/29561
ポーター教授は「業界」=「収益を奪いあう場所」であるとも説いています。つまり、5フォース分析は売上やシェアだけでなく、「利益」を脅かす脅威や環境を多角的に評価するという点で非常に優れています。このように、収益性を測る5フォース分析では、「競争が激しければ収益性は下がり、競争が穏やかであれば収益は確保しやすい」と、当たり前ではありますが、こういった理論が前提にあります。
ここからは5つの各項目をそれぞれが、具体的にどのような評価軸が必要か見ていきましょう。
具体的な分析方法
ここからは、5つの各項目についてそれぞれ分析や評価の観点を解説していきます。業界や環境によって各項目の重要度は異なってくるという点と、数字にできない評価軸もあるため、評価の仕方は難しい部分もあります。分析が終わった後の評価は、それぞれ脅威が穏やかであれば”〇”、脅威が強ければ”×”、どちらとも言えない場合は”△”という形で行われることが多いです。
要因1.競合他社の脅威
分析項目1つ目は、競合他社の脅威です。同じ業界内の競争相手との競争の度合いを分析します。競争が激しい市場では、価格競争が起こりやすく、利益率が低下する可能性があります。営業シーンでは”競合比較”や”差別化ポイントの明確化”という言葉はかなり聞き馴染みがあると思います。 それらに加えて、市場の成長や撤退の障壁、買収や合併の難易度といった、中長期的なリスクや機会を考慮します。
【重要な評価軸】
- 競争相手の数や規模
- 知名度や評判
- 製品の差別化度合い
- 価格優位性
- 市場の成長速度や安定性
- 撤退のしやすさ
- 買収や合併の難易度
要因2. 新規参入者の脅威
分析項目2つ目は、新規参入者の脅威です。新規参入がしやすい環境だと、既存の企業は市場シェアを失うリスクが高くなります。逆に、新規参入ハードルが高いと競争が起きにくく、収益が確保しやすい環境と言えます。 新規参入のハードルは業界によって大きく異なりますが、企業は新規参入を防ぐために、ロビー活動と呼ばれる企業や団体の働きかけによってによる法規制を強化したり、特許取得したりするなど戦略的に障壁を作るということも少なくありません。
【重要な評価軸】
- 規模の経済の優位性
- 設備投資の必要性
- 初期投資の高さ
- 撤退のしやすさ
- 専門知識や資格の必要性
- 規制と政策
- 供給チェーンへのアクセス
- 流通チャネルへのアクセス
要因3. 代替品の脅威
分析項目3つ目は、代替品の脅威です。直接的な競合に限らず、別カテゴリのサービスや製品が自分たちの市場やニーズを取り合っていることが多いです。このような代替品の存在は、顧客が既存の製品やサービスから移行する可能性を示しているため、見落としてはいけない観点です。 例えば、人材紹介サービスは、企業の「人材確保」というニーズを満たせますが、他にも例えば、求人広告、派遣、アウトソーシングといった別カテゴリともニーズや市場を取り合っています。代替品は市場の価格やサービスそのものに対して圧力をかけるため、代替品の脅威が高い場合、常に警戒を保つ必要があります。
【重要な評価軸】
- 代替品の価格と性能
- スイッチングコスト
- 顧客の製品に対するロイヤリティ
- 法規制や環境基準の変化
- 代替品の流通チャネル
- 社会的・文化的トレンド
要因4. 買い手(顧客)の交渉力
分析項目4つ目は、買い手(顧客)の交渉力です。買い手と自社の購買におけるパワーバランスを評価します。買い手の交渉力が強い場合は、値下げの圧力がかかったり、規格の変更に応じてもらいにくかったりするいという傾向にあります。なので、価格競争や利益圧迫につながることが多いです。
逆に、買い手との交渉力を高めるために品質向上や独自性(自社製品である必要性)を担保することが重要となります。
【重要な評価軸】
- 購入量と全体に占める割合
- 品質や規格の重要性
- 製品の独自性
- スイッチングコスト
- 価格感受性
- 調達ルートの多さ
要因5. 売り手(サプライヤー)の交渉力
分析項目5つ目は、売り手(サプライヤー)の交渉力です。自分たちの材料や売り物の仕入れ先=”売り手”と自社の購買におけるパワーバランスを評価します。買い手との交渉力と考え方は同じです。売り手の交渉力が強い場合は、値上げの圧力がかかることが多く、利益に大きな影響があります。例えば、半導体や、原油、レアメタルなどの商品を持つ売り手は、代替不可かつ、供給先が限られるため交渉力が非常に強い傾向にあります。
逆に、自社の交渉力が強い場合は、値上げを拒否したり、購買先を変えたりするなど、により利益確保しやすい環境にあると言えます。
【重要な評価軸】
- 供給者の集中度
- 代替供給源の存在
- 供給品の差別化度
- 原材料の重要性
- 供給品の価格変動
評価から戦略立案の手順
5つの要因に対する評価が終わったら、そこで終了ではなく、脅威を取り払うべく、または優位性を担保し続けるための戦略を立てていきましょう。具体的には下記のステップで進めていきます。
ステップ1:分析結果のレビューと優先順位の設定
各フォースの影響度を評価し、ビジネスの目標やリソースに基づいて、対応すべき領域の優先順位を設定します。 優先順位を決めるために考慮すべき軸は、
- 実現可能性
- 実現した時のインパクト
- 実現するまでにかかる時間
- 必要なリソース
- 費用対効果
- 失敗した時のリスク
などが挙げられます。
ステップ2:戦略の策定
優先順位の高い領域に対して、競争優位を高める具体的な戦略や行動計画を策定します。複数のオプションを検討し、リスクとリターンを比較します。
例えば、
- 市場のポジショニングやターゲットの変更
- 製品の差別化
- コスト構造の最適化
- 新規市場への進出
などが含まれます。
ステップ3:実行計画の作成とリスク管理
立案した戦略を実行するための計画を作成し、必要なリソースとタイムラインを割り当てます。戦略に伴うリスクを評価し、緩和策を計画します。 実際の行動計画は5W3Hを中心に検討を進めていきます。
5W
- When(いつ)
- Where(どこで)
- Who(誰が)
- Why(なぜ)
- What(何を)
3H
- How(どのように)
- How many(どのくらい)
- How much(いくら)
ステップ4:実施と評価
戦略を実行し、その効果を定期的にモニタリングして、市場の変動や実施状況に基づいて必要に応じて調整します。定期的なレビューを行い、戦略を最新の市場状況に合わせて更新します。これらのステップを通じて、5フォース分析の結果を実用的な戦略に変換し、ビジネスの競争力を高めることができます。
5フォース分析を顧客理解に応用する
ここまで、自社のビジネス推進において5フォース分析の重要性やそのやり方を見てきました。そしてこの分析フレームワークは、”自社の顧客やターゲット企業”の状況を理解するためにも大きなメリットがあります。つまり、”自社のターゲット”を5フォースの中心に据えて分析するという活用方法です。
ターゲットの業界が直面している競争力の構造を理解することは、自社の製品やサービスがどのようにニーズに合致し、ターゲットのビジネス環境に価値をもたらすかを深く把握するのに役立ちます。例えば、顧客業界の競争が激しい場合、コスト削減や差別化を図る製品やサービスが特に重要になります。
また、顧客の業界における新規参入者の脅威を理解することで、市場変動への対応策や新しいビジネス機会を見出すことができます。このように、5フォース分析を通じてターゲットのビジネス環境を理解することは、営業戦略やプロダクト方針の立案や、商談の事前準備など、営業シーンでも効果を発揮します。
ケーススタディ
ここでは、日本の建設業界を例にして5フォース分析をしてみます。評価の方法としては冒頭でお伝えした通り、それぞれ脅威が穏やかであれば”〇”、脅威が強ければ”×”、どちらとも言えない場合は”△”という形で行っていきます。
競合他社の脅威
評価:✕
業界内には多数の競合が存在し、市場は飽和状態。価格競争が激しく、利益率が低下する可能性が高い。
競争相手の数や規模
|
日本の建設業界は、大手企業から中小企業まで多くの競合が存在し、市場は飽和状態に近い |
知名度や評判
|
大手企業は知名度や実績で優位性を持つが、中小企業も地域密着型のサービスで競合する |
製品の差別化度合い
|
独自の技術やサービスによる差別化は一部に見られるが、基本的には似通ったサービスが多い |
価格優位性
|
中小企業は価格競争により利益率が低下する傾向にある |
市場の成長速度や安定性 |
人口減少と都市集中により、地方の建設市場は縮小傾向にある |
撤退のしやすさ |
規模が小さい企業ほど市場からの撤退が容易 |
買収や合併の難易度 |
大手企業間の買収や合併は規模の大きなものが見られるが、全体的には頻繁ではない |
新規参入者の脅威
評価:〇
新規参入のハードルが高く、特に大手企業が市場を支配しているため、新規参入による脅威は低い。
規模の経済の優位性 |
大手企業が市場を支配しており、新規参入者には不利 |
設備投資の必要性 |
建設業界では高額な設備投資が必要 |
初期投資の高さ |
初期投資が高く、参入障壁が高い |
撤退のしやすさ |
小規模な事業であれば撤退は容易だが、大規模事業では困難 |
専門知識や資格の必要性 |
高度な技術や資格が必要 |
規制と政策 |
厳しい建築基準や法規制が新規参入を難しくしている |
供給チェーンへのアクセス |
既存の関係性に基づく供給チェーンが形成されており、新規参入者には不利 |
流通チャネルへのアクセス |
既存の販売チャンネルが確立されているため、新規参入者には困難 |
代替品の脅威
評価:△
建設業界での明確な代替品は少ないが、技術進歩により新たな代替可能性が出現し始めている。
代替品の価格と性能 |
建設業界では明確な代替品は少ないが、建築技術の進歩により新たな代替可能性が生まれつつある。 |
顧客の製品に対するロイヤリティ |
顧客のロイヤリティは比較的高いが、コスト削減の圧力により変化する可能性あり。 |
法規制や環境基準の変化 |
環境基準の変化により、新しい建築材料や方法への移行が進む可能性。 |
代替品の流通チャネル |
代替品の流通は限定的だが、技術進歩により変化する可能性がある。 |
社会的・文化的トレンド |
エコ建築などの新しいトレンドが代替品の需要を生む可能性がある。 |
買い手(顧客)の交渉力
評価:△
大規模プロジェクトでは顧客の交渉力が強いが、品質や安全性を重視する傾向もあり、総合的には中程度の脅威。
購入量と全体に占める割合 |
大規模なプロジェクトでは顧客の交渉力が強い。 |
品質や規格の重要性 |
高品質や特定の規格を求める顧客が多い。 |
製品の独自性 |
独自性が高いプロジェクトでは顧客の交渉力が低下する。 |
価格感受性 |
価格に敏感な顧客が多いが、品質や安全性を重視する傾向も強い。 |
調達ルートの多さ |
複数の調達ルートが存在し、顧客の選択肢は多様。 |
売り手(サプライヤー)の交渉力
評価:△
一部の資材では供給者の集中度が高く、価格変動の影響を受けやすいが、総じて見ると中程度の脅威。
供給者の集中度 |
一部の資材においては供給者の集中度が高い。 |
代替供給源の存在 |
一部の資材では代替供給源が限られている。 |
原材料の重要性 |
建設業界において原材料は非常に重要。 |
供給品の価格変動 |
原材料の価格変動が利益に大きな影響を与える。 |
この分析により、日本の建設業界は競争が激しく、新規参入の障壁が高く、代替品の脅威が低いが増加する可能性があり、顧客およびサプライヤーの交渉力が相対的に高いという特徴が見てとれます。これらの情報をもとに、自社の強みやリソースを鑑みて売上や利益確保の戦略を立てていくことになります。
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『5フォース分析の使い方 』とあわせて、「競合比較・分析フォーマット」もご活用ください。競合比較に便利なエクセルフォーマットです。弊社コラム「BtoB営業における競合比較・分析のやり方を6ステップで解説!」と併せてご活用ください。
終わりに
5フォース分析は、自社の環境を理解し競争環境を評価するためのフレームワークです。加えて、自社のターゲット企業を分析することで「自社のサービスがどんな価値提供ができるのか」という観点からも示唆を得ることができます。こういった点からも経営文脈だけでなく、事業運営や営業部門の方にとっても有効なフレームワークと言えます。
また、これらに加えて、マクロ環境を分析するためのPEST分析などを組み合わせることで、具体的な影響のある法律や事象、トレンドなどがより鮮明になるのでオススメです。最後に、市場は常に変化しているため、定期的なモニタリングや見直しが必要になってきます。本コラムがみなさまの営業活動の参考になれば幸いです。
監修者プロフィール | |
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執行役員 カンパニーCMO /セールスエバンジェリスト 株式会社セレブリックスのセールスエバンジェリストとして、法人営業に関する研究、執筆、基調講演等を全国で行う。2021年8月には “Sales is 科学的に「成果をコントロールする」営業術” を扶桑社より出版。営業本のベストセラーとして累計出版数が5万部を超える。 2022年7月には単著二作目として “お客様が教えてくれた「されたい」営業” を出版。現在は執行役員 CMOと新規事業開発の責任者を兼任。管掌するプロダクトとして営業コミュニティのYEALE、営業専門の人材紹介のSQiL Career Agent、日本最大級の営業エンターテイメントJapan Sales Collectionなどがある。 Everything DiSCの認定トレーナーであり、専門は営業、プレゼンテーション、コミュニケーションスタイルと多岐に渡る。 |